市長の手控え帖 No.160「ベンチャー企業を育む京文化」
稲森和夫氏が亡くなった。京セラを創業し独特の手法で大企業に育て上げた。謙虚な人柄と、人生論に昇華させた経営論は共感を得た。松下幸之助に並ぶ経営の神様だった。堀場製作所は排ガスの分析・測定機器のトップメーカー。創業者は故堀場雅夫。昭和20年、京大在学中に起業したベンチャーの雄だ。
平成15年7月。福島駅西口に、県の産業振興に関わる団体が入居するビルが完成。記念講演を堀場さんにお願いすることになった。早速京都へ。府庁に近いホテルのロビーでお会いした。がっちりした体に鋭い目。豊かな白髪を後ろで束ねていた。とても80歳には見えない。一流の人物が発するオーラに圧倒された。心配だった講師の件は承諾を得た。その夜は京名物の鱧料理に舌鼓を打った。
堀場のベンチャーへの想いは強い。気鋭の経営者を発掘・育成する「京都市ベンチャー企業目利き委員会」の代表を務めた。委員にはワコールや日本電産の社長、著名な学者が名を連ねる。練達の士の審査は厳しいが、合格すると資金調達や販路開拓等の支援を受けられる。
京都には、一流のベンチャー系ものづくり企業が本社を構える。京セラ、日本電産、村田製作所、オムロン、島津製作所…。京都府の人口規模で、これほどの企業が揃う県はない。そこには「千年の古都」が培った知恵と伝統と文化がある。京都人は"ほんまもん"へのこだわりが強い。それが創造的な技術を生み、トップシェアの製品につながっている。
京セラは自動車の半導体用セラミックで、村田製作所はスマホ・パソコンの電子部品で、日本電産は精密小型モーターで独走する。また伝統産業が先端技術の土壌になっている。島津製作所は仏具の製造技術を理化学機器へ、村田製作所は清水焼の燃焼・成形技術をセラミックコンデンサへ、任天堂は花札やトランプをテレビゲームへ転換し、躍進した。
京都で尊敬されるのは長続きすること。決して稼ぐ力だけではない。変化の激しい時代に、京都の企業群は軒並み業績を伸ばしている。それは未来につなぐ強い意志があり、先見性と実行力が優れているから。自動改札機や現金受払機を世に出したオムロンはその代表だろう。
また"よそ様に迷惑をかけない"気風も強い。老舗のひしめく古都で商売敵を作らないためには独自の道を切り拓くこと。それが、オンリーワンやイノベーションを生み出す土壌になっている。
"ほんまもん"の集積を支えているのが大学。京都の学生人口の割合は断然トップ。官僚養成の東大に対し京大は自由な研究開発の場。ノーベル賞受賞者に京都関係者が多く、京大を中心とした研究者のレベルは高い。産業と大学の連携は、国が言い出すはるか前から行われていた。経営者は勉強熱心で、異業種交流も活発だ。これを府と市が支援する。
京都には産業の基盤が整っている。堀場は"大学の集積と技術の蓄積の高い京都での起業や新事業開発は、登山で言えば8合目にいるようなもの"と言う。さらに国際観光都市としての知名度がある。客人への細やかなサービスと、芸妓の華やかさが醸し出す祇園の魅力。茶の湯、華道、京料理。京文化が企業ブランドの高さにつながり、本社を東京に移転しない京都経済人の矜持になっている。
堀場製作所の社是は"おもしろおかしく"。堀場は言う。"人生80年のうちの最も貴重な40年間を使う仕事が、おもしろおかしくなくて何のために生きるのか。自分の経験で言うと、おもしろいと思ってやった仕事は殆ど成功している"
稲森は、経営者に逆境を乗り越える気概を持てと叱咤した。日本経済は厳しい状況にあるが、依然として経済界は内向き。今こそ"ほんまもん"に生涯を賭けた堀場・稲森イズムを思いおこしたい。
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