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市長の手控え帖 No.66「笑顔のもてなし清掃」

市長の手控え帖

アジアの大躍進が始まっている。あらゆるものを、いっぺんに飲み込もうとする躍動感に満ちている。100年かけて段階的に進むところを、途中を飛ばして追いつこうとする。中国では、固定電話が普及する前に、一挙に携帯電話・スマートフォンに切り替わった。いきおい、生活レベルの向上に、社会資本や公共システムの整備がついていけない。鉄道・地下鉄・モノレール、電気・水道・衛生、さらには政治・行政制度まで、急ぎ必要としている。そこで技術やシステムの輸入となり、日本や欧米のビジネス・外交の大きなチャンスとなっている。経済の発展は人・ものの広域活動を促し、高速鉄道・道路、航空の需要が増す。特に、短時間で大量の人を運ぶ高速鉄道は、各国で競いあうように建設されつつある。

「新幹線」は世界の最高水準にある。速くて正確、揺れの少なさ、地震等への高い対応力。優れた技術と鉄道マンの職業力は賞賛に値する。それ故、日本の技術や設備を導入しようとする。しかし、これだけで列車の運行を支えることはできない。安全運転や車両・線路の維持補修、ダイヤ編成、接客等ソフト面の力が欠かせない。ソフトには蓄積された技能や緻密さ、そして使命感が必要。これらは、様々な経験や試行錯誤の中から生まれてくるもので、時間もかかるし、組織的な対応が求められる。大きくみれば民族性もかかわってくる。

ソフトには清掃も入る。ここのところ、新幹線の清掃が注目を浴びている。「新幹線 お掃除の天使たち」としてミュージカル化されるなど、高い評価を受けている。黒の帽子とスラックスに真っ赤なジャンパー。全員笑顔で姿勢がいい。一列に並び、ホームに入る列車へ深々と礼をする。降りるのを見計らい掃除に着手。列車が着き、折り返すまでの間は12分。降車に2分、乗車に3分、残る7分で清掃する。窓やトイレを磨く、座席下等のごみ処理、座席カバーの交換、忘れ物のチェック。団体や高校生の旅行などは苦労するというが、いかなる場合も手際良く処理する。100席ある一車両を原則、一人で受け持つ。終えると、「お待たせしました」と再度礼をする。何ともいえない清々しさ。プロの仕事振りと、礼儀正しさが人の心を揺さぶる。

また、大きな荷物を抱え困っている年配者を助ける。赤ちゃんが泣いている母親の手伝いをする。体調が悪そうな人を気遣う。あるいは、季節の贈りものをしようと、アロハや浴衣を着たり、帽子にハイビスカスの花を飾ったりする。男女兼用のトイレに入れない女性からの訴えを本社につなぎ、女性専用をつくるのに尽力するなど活動の場を広げている。

従来なら、「清掃には関係ない」と一蹴された。これが大きく変わった。自分たちの仕事は清掃だけではない。楽しい旅や節目の旅、人生の思い出づくりの手助けをしている。ひとときの、心地よい空間を提供しているという誇りが生まれた。新幹線の掃除部門から、清掃技術サービスを担う集団へと変身した。

清掃を行っているのはJR東日本の子会社。陽があたる仕事とはいえない。むしろ、きつい、汚い、危険の3Kにあたる。本社から異動を命じられると、「何故俺がここに?」という評価。ここで採用された社員も同じ。どうせ精を出しても下積み。与えられたものを淡々とこなすだけ。沈滞した気分に包まれていたという。9年前に着任した役員は「どうせやるなら楽しくやろう」と改革にのり出した。

まずは誇りを持とうと呼びかける。"こなす"のではなく、決められた時間の中で最高の清掃をしよう。快適な空間をつくろう。さわやかな、もてなしをしよう。当初は強い反発があったという。粘り強く、現場で働く人と対話し、説得し、意見を取り入れた。少しずつ実行に移すと、「きれいになったね。テキパキしているね」とのほめ言葉が聞こえてくる。次第に不協和音が消えていった。社員から前向きな提案が出るようになり、本社の見る目も変わってきた。まわりから認められると、より高い目標を持とうとし士気も高まる。自分の仕事に誇りを持ち、働くことの充実感につながる。好循環が生まれた。

噂になり、米国運輸長官が視察し、ドイツ国営放送が取り上げ、日本のマスコミも注目した。現場の力を引き出した経営陣と、呼応した社員の見事な共同作業に学ぶところは多い。これは「自分の仕事にこだわる。より良いものを求める」日本人の土壌に由来しているように思える。紛れもない日本の底力。新幹線の技術に加え、"笑顔のもてなし清掃"も、輸入したいとの声があがるのは当然かもしれない。

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