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市長の手控え帖 No.64「ケネディの輝き」

市長の手控え帖

あけましておめでとうございます。皆様には、希望に満ちた新年をお迎えのことと思います。いよいよ今年は、待望の市民文化会館の整備に着手することになり、小峰城の石垣修復も順調に進んでいます。また、大震災で痛ましい犠牲者を出した葉ノ木平も、国道294号のバイパスとして建設する準備に入っています。災い転じて福となす。復興から発展への槌音が響きはじめる年にしたいと思います。

キャロライン・ケネディが米国駐日大使になった。ご存知、ジョン・F・ケネディ元大統領の娘さん。マスコミは競うように大きく報道した。昨年の11月19日は丁度上京していた。東京駅から皇居に続く沿道は山のような人だかり。有名スターでも通るのかと尋ねたら、ケネディ大使を待っているという。そうか新大使が天皇陛下に、信任状を捧呈するため、古式ゆかしく馬車で向かう日にあたっていた。それにしても、駐日大使がこれほど話題になることはなかった。彼女は政治外交面で実績があるわけではない。でも、不思議なことに、華やいだ気分と、これで日米はうまくいくとの明るさに包まれている。

それは、ケネディという名が放つ輝きによるものだ。若くて、演説上手で、明朗。幸せそうな家族。アメリカが、飛びぬけた経済力・軍事力で世界の盟主となり、国民もひとつにまとまっていた黄金の時代に合っていた。在任わずか2年半。実績の評価は難しいが、人気は突出している。さらに、悲劇的な最期が「理想の大統領」としての印象を焼きつけた。

ケネディは就任式で訴えた。「国があなたのために何ができるかを問うのではなく あなたが国のために何ができるかを問うて欲しい」。この言葉は国民の心をとらえた。熱い期待を背にスタートする。だが、世は厳しい東西冷戦の真只中。共に軍事拡張、陣営の拡大に躍起になっていた。見渡せば、世界はひと癖もふた癖もある老練な指導者ばかり。

社会主義諸国を率いる東側の親分はフルシチョフ。好々爺のような風貌だが、激しい権力闘争を生きぬいてきた不敵さが漂う。変幻自在でタフ、とても一筋縄ではいかない。米国の傘下にありながら、核を持ち東側とも手を結び独自の道をいくフランスのド・ゴール。長身痩躯の軍人大統領はストイックで誇り高く気難しい。日本と闘い、内戦を経て大中国をまとめあげた毛沢東。底知れぬ策謀を秘め、不気味に蟠踞する。いずれも、ケネディ何するものぞと尊大に構える。若きリーダーは、揺さぶられるが、鍛えられていく。

裏庭のキューバでは、若き革命家チェ・ゲバラとカストロが反米政府を樹立した。そしてキューバ危機。ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設する。船舶の出入りを米偵察機が発見。直ちに撤去を要請。のらりくらりとかわすソ連。米国は断固たる措置をとる。周辺海上を封鎖し、船舶の臨検にはいる。フルシチョフはどう出るか。下手をすれば第三次大戦になる。世界はかたずを飲む。2日後キューバに接近したソ連船がUターンする。息づまる13日間の激闘だった。

秘話がある。ケネディは、戦争中、魚雷艇長だった。ソロモン諸島の西で、日本海軍駆逐艦「天霧」と衝突。小さな船体は大破し、海に投げ出された。長時間漂い、何とか島にたどりつく。九死に一生を得たケネディは、艦長の消息を確認し、手紙での交流を深めた。大統領就任式にも招待した。この士官は塩川町(現喜多方市)の花見弘平さん。海軍兵学校出のエリート。戦後農業に従事し、町長も務め、私が面識を得た頃は、土地改良区理事長をされていた。眼光鋭く威厳のある方だった。

アメリカは、新教徒を中心につくられた移民の国で、歴史も浅い。名望家も少なく、貴族もいない。実力と運があれば誰もが頂点に立てる。しかし、国家には、民を束ねるシステムと、心のよりどころが必要。これを、権力と権威を持つ大統領に求めている。ワシントン、リンカーン、ルーズベルトら傑出した人物が国を率いた。だが、ケネディ家のように長く愛され、影響力を持った家系はない。大使を承認する権限を持つ上院でも、「あなたの適・不適を論ずる必要はない。ケネディの名は別格」と全員一致で同意。ケネディ家は、現代の王朝なのかもしれない。

海をはさんだ国際関係はもつれた糸のよう。この地域に平和と秩序を保つには、歴史に学び将来を見通す深い見識と、強靭な意思が欠かせない。ケネディ大使には、「新しい未来の先駆者となるニューフロンティア精神」を呼びかけた父の心が受け継がれている。日米の架け橋となり、東アジアの安定に心を砕いて頂きたい。

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