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市長の手控え帖 No.49「領土を守るとは」

市長の手控え帖

日本近海の波が高くなってきた。韓国大統領の竹島上陸は、国内での不人気を回復するための、思慮に欠ける行動。ここは感情的にならず、論理的に国際司法の場で解決するのが得策。日韓は経済・文化での依存、交流が格段進み、よき隣人になる条件ができつつある。両国は昭和40年の条約で決着を図る約束をしている。日本は、ここに盛り込まれなかったものを、河野談話という形で誠意を示している。慰安婦や植民地支配のことを蒸し返して、この先得るものがあるのだろうか。

厄介なのは尖閣。日本が実効支配していることを中国は容認してきた。ところが、海底に資源のあることが分かるや、突然領有権を主張。日本は正当性があると、高をくくってはいけない。中国は不利なことを承知の上で既成事実を積み上げようとし、その様子を世界に発信している。事を荒立てたくないあまり、穏便な対応に終始すると術中にはまる。「長年、日本は強い意思を示さなかった。領有権があると考えていない証拠」とくるに相違ない。中国はあれほど大きいのにと思うなかれ。巨大な人口、砂漠も抱え、内陸は貧しい。海洋資源と米国に対峙する海上防衛ラインは、喉から手が出るほど欲しい。

中国は5千年来、王朝が激しい戦いを繰り返し、北方民族の支配も受けた。権謀術数、外交のしたたかさにおいて、和の国日本はひけをとる。しかも、恐ろしく長い時間をかけ実をとりにくる。油断は禁物。

勿論、血を流すことは避ける。戦う意思を秘め毅然たる態度で臨みつつも、武力は抑止力に使うべき。全ての力を注ぎ、「静かなる戦い」のうちに事を進めることが大事。「力」とは何か。英米をカードに、日露戦争を終結に図ったような外交。追随を許さない高い技術。整った社会保障や教育制度。辛抱強く勤勉な国民性等。いわゆるスマートパワーだ。政治・経済の指導者の資質もこれに入る。

英国の3人を思い浮かべる。1人はチャーチル。第2次大戦時の首相。短軀・猪首にロングハットと葉巻。ドイツの空襲に耐え、反転攻勢の機をうかがう。「この試練のために私の人生は準備されていた」と、強い信念と老練さで国をまとめる。中立をとっていた米国を巻き込み、ソ連を引き込む練達の外交でドイツを追い詰める。勝敗の行方が決まると、一転戦後の敵はソ連とみてとり、いち早く世界戦略を練る。ブルドックのような愛嬌のある顔に、鋼の意思と研ぎ澄まされた刃を秘めていた。

もう1人は国王ジョージ6世。実兄が王冠より恋を選び、1年足らずで退位。心の準備もないまま、突然お鉢が回ってきた。しかも内向的で吃音症に苦しんでいた。重圧に泣いたという。しかし、言語療法士の献身と必死の努力で克服。ドイツに宣戦布告する際のスピーチは見事だった。地下壕に身をひそめ、不安におびえる国民を励ました。真面目な人柄からほとばしる魂の言葉。

娘エリザベスは、父の苦悩を間近に見ていた。女王在位60年、重圧に耐えた力の源は、ここにあるのかもしれない。偉大な君主と首相を持った英国は幸運だった。

もう1人は「鉄の女」サッチャー。英国再建のため、小さい政府と規制緩和・国有企業の民営化等に大鉈を振るった。改革の評価は分かれるが、経済の再生と国民の誇りを取り戻したことは間違いない。

不評だった株が急上昇したのは、30年前のフォークランド紛争。突然、領有権を主張するアルゼンチン軍が占拠。サッチャーは間髪を入れず、南米大陸の南端に軍隊の派遣を決定。多くの犠牲を払いながらも2か月で奪還。女性宰相は「人命に代えてでも英国領土を守らなければならない。なぜなら、国際法が力の行使に打ち勝たなければならないからだ」と述べた。はやての如く速い決断と鬼神の如き気概。チャーチルの前任者チェンバレンがヒトラーと事を構えるのをためらい、ドイツの暴走を許してしまった苦い記憶がよぎったのかもしれない。サッチャーは「斜陽の帝国」と呼ばれるのを恥とし、威信回復に全てを捧げた。

領土問題は人を熱くするが、肝心の守るべき領土とは何かを考えたい。それは国土のみを意味しない。地域共同体や伝統・文化であり、美意識である。翻って福島はどうか。国土の一部から、まだ6万もの人が故郷を追われている。復興への形はできつつあるが、最も大事な国の意思を感じない。「福島の再生なくして日本の復興なし」を何度聞いたことか。そのたびに虚ろになる。情が伝わらない。言葉に難のあったジョージ6世と総理、どちらが雄弁か。外交は内政の延長。福島を守れずして、竹島・尖閣を領有できるのだろうか。

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