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市長の手控え帖 No.40「名もなき英雄たち」

市長の手控え帖


原発事故後に消防・警察・自衛隊で献身的行動をとった「福島の英雄たち」へ、スペイン皇太子賞が授与されました。大震災に、冷静かつ責任を持って対処した多くの名もなき英雄に対する賞賛です。

発災直後、上りの新幹線が大谷地で急停止した。自動制御技術の高さに敬服するとともに、乗客を中央中体育館に避難させた駅長らの迅速な働き。市内の工場も大きく被災した。交通・通信もままならない中、泊り込んで事にあたる士気旺盛な社員と的確な工場長の指揮。目を見張るほどのスピードで回復させた。東北六県の主要国道・河川を管理する国交省東北整備局。地震で各地からの映像が切れた。被害状況が分からず混乱する中、ある職員が「局長、ヘリコプターを使いましょう」と提案。即座に指示し、ヘリコプターからの撮影で全体を把握。通行不能となった、三陸の生命線国道45号を総力をあげ短時間で復旧。判断が遅れていたら、津波にのみ込まれた仙台空港からは飛べなかった。驚嘆すべき現場の力です。隠れたヒーローが各地にいました。

「一隅を照らすは国の宝」。アサヒビールのスーパードライは起死回生の大ヒットとなった。社長はいう。マーケティング・品質設計・生産・営業の歯車がうまくかみ合った、だから「社員全部でつくった」と。各々が縁の下の力持ちとなり、自分の役割を果たすことで大きな力を発揮する。会社は「名もなき英雄」が支えています。

市内八つの中学生との懇談会をひととおり終えました。皆さんキラキラした瞳で聴いてくれました。これまで気づかなかったり、答えがすぐに出せないような鋭い意見があったり、私にとってもいい勉強の場になりました。私自身、中学生の頃も悩んだが、今でも毎日悩み迷っていること。やがて世界で活躍しようとも、出発点は白河であり、その歴史や伝統に誇りを持つこと。また「偉い」とは何かを問いかけた。社会的地位にあるから、裕福だから偉いとはいわない。家庭を守り、懸命に働き、地域の行事に汗をかく。自分の役割を自覚し、力の及ぶ限り誠実に果たそうとすること、これこそが「偉い」との思いを話した。

近頃、よく「少年よ 大志を抱け」の意味を考える。一般的には、近代化を目指す明治の精神と重なり、「立身出世」と理解されている。と同時に、この言葉にはよく働き・祈り・礼節をわきまえ、明治日本の礎となるようにとの、クラーク博士の願いが込められているように思える。

首相は中間層を厚くすることの必要性を力説している。社会の中間層とはこういう人々を指しており、ここに位置する人たちの、労働・金銭、文化・宗教に対する価値観が、国のイメージを形づくっている。20年来の、構造改革や市場主義で格差が広がり、中間層がぐんと薄くなった。これが社会を不安定にしている要因でもある。幕末から明治にかけ日本を訪れた外国人は、日本人に対して同じような印象を残している。「彼らの礼節・素朴さ、勤勉・器用さ、質実さは優れた美徳であり、日本の飛躍を暗示している」。名もなき英雄こそが社会を支えています。

過日、政府は原発の冷温停止状態を宣言しました。しかし、誰も原子炉の中を見た者はおらず、再臨界の恐れがないとはいえないと、冷めた目で見ています。「収束」が虚しく響くほど本県に残された爪跡はあまりに大きく深い。国や東電が前面に立たなければ道はできないのに、はや舞台から降りようとしている。

今回の避難者等への賠償指針の決め方も拙劣で機械的。早く片づけて店じまいしたいとの意図が透けて見える。放射能による健康不安を懸念する生活。「福島」というだけで偏見や差別の目にさらされている。ひとしく県民は被害者であり、県をあげて復興に気力をふりしぼる大事なときに、県内を分断するやり方は許せない。苦しむ人たちに寄り添うどころか、一刀のもとに切り捨てる冷たさ。被災県を軽んじているか、不信の目で見ているとしか思えない。

今、放射能という妖怪に翻弄されている福島を支援するための法律が準備されている。時が移り内閣が変わっても、引き続き国の支援を引き出さなければならない。それには「福島再生法」が極めて大事で、これが復興の最後の砦になると思う。

実のある内容を盛り込むため、県は全ての力を集結し、国に迫るよう働きかけていくべきである。私たちの前には荒野が広がっている。しかし、世界が賞賛したように、福島県にも白河にも、誠実で公共心に富んだ、名もなき英雄がいます。皆さんと手を携え、確かな明日へ向けた歩みを進めていきます。

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